作品と技法

ここにある作品はすべて、東京・大田区の工房で、木工旋盤を使って一点ずつ挽いています。

技の来歴

日本で木をろくろで挽いた記録は、千年を優に超えてさかのぼります。762年の文書に、寺の塔の露盤をろくろで挽いたことが記されています。山の木を求めて谷から谷へ移り住んだ木地師たちが、この技を各地に運び、やがて漆器の町となる場所を作りました。木地師自身の伝承では、九世紀に近江の山に隠れ住んだ皇子が家臣に椀を挽くことを教えたのが始まりとされます。歴史家はこれを伝説として読みますが、伝説が説明している技そのものは本物です。

そのひとつが石川県の山中です。十六世紀の終わりに木地師が定住し、いまも「木地の山中」——石川の漆器の木地を挽く町——と呼ばれます。十九世紀の初めに木地そのものへ模様を刻む技が生まれ、名前のついた筋は数十種にふえました。なかでも細い毛筋は、明治の初めにこの町で考案されたものです。光が透けるほど薄く挽く薄挽きも、山中で知られる仕事です。

叢雲塗は同じ町の漆器で知られる変わり塗のひとつで、漆が固まる前に和ろうそくの煤を付けます。山中でいまこれを続けている塗師はわずかです。

浮月挽は、これらとは性質が違います。地域の様式ではなく、それを持つ作り手に属する技です。SuuWorx が誰から何を学んだかは、工房のページに書いています。

遊環技法(ゆうかんぎほう)

本体から外れない輪です。継ぎ目のない一つの木塊から挽き出したまま、一度も抜いていません。輪の木目は、本体の木目にそのまま続いています。継ぎ目を探しても見つかりません。組んだのではなく、切り出しています。

指で回ります。それでも抜けません。

軸を滑り、回る。それでも抜けない
香合の首に浮く輪
香合の首をめぐる輪
オーナメントの首に浮く輪
オーナメントにも同じ輪

薄挽き(うすびき)

旋盤は材を削るだけで、足すことはできません。一度削りすぎれば戻せず、その作品ごと失われます。ここのコップと逆杯は、その境目を狙って挽いています。逆杯は約10グラム。光にかざすと、木目が透けて見えます。

10グラムまで薄く挽いた逆杯
逆杯。二つの円錐が一点で合わさり、約10グラム

浮月挽(うげつびき)

浮月挽は、この工房が名を背負っている細工です。形の縁を一周する細い輪が、そこに乗ったまま、くるくると回ります。

相輪の輪。指先で回る
仏塔の屋根の縁を一周する細い輪
屋根の縁を一周する輪
胴の輪も同じように回る
軸ずらしオーナメントの胴に刻まれた輪
軸ずらしオーナメントの胴

工房と、作り手が学んだところはこちら

毛筋(けすじ)

近くで見ると、表面は滑らかではありません。ろくろを回しながら刃物を当て、髪の毛ほどの細い溝を一本ずつ刻んでいます。木地に施す加飾のなかでも、とりわけ細いものを毛筋と呼びます。

この言葉は、石川県・山中の木地師たちが数十種の筋を編み出したことに由来します。当工房は東京にあり、山中漆器そのものではありませんが、同じ刃の当て方をしています。

溝は飾りだけのものではありません。あとから入れる油や漆が溝に沈み、木目が深く出て、手のなかで滑らなくなります。

仏塔の相輪に刻まれた毛筋
仏塔の相輪に入れた毛筋

叢雲塗(むらくもぬり)

叢雲塗は、山中漆器に伝わる変わり塗の技法です。漆が固まる前に和ろうそくの炎にかざし、炎から出る煤(すす)を付けます。煤は表面に乗るのではなく漆の中に入ります。明るい下地の上に黒と灰の濃淡が流れ、夜空を渡る雲のような模様になります。

炎の揺らぎは二度と同じにならないため、模様は一点ごとに異なり、狙って同じものは作れません。この店では一点のコップにこの仕上げを施しています。

ヒノキのコップに施した叢雲塗。淡い木肌に黒が流れる
ヒノキのコップの叢雲塗。淡い木肌に黒が流れる
叢雲塗のコップを手に持ったところ。薄い縁から木目が透ける
手に取ったところ。木目が透けるほど薄い

形のこと

蓋物は、香合——茶の湯で香を入れる小さな器——の形をなぞっています。風炉の季節には木地や漆のものが好まれてきました。1855年には、道具屋や目利きが集まって香合の番付を刊行しています。この店の香合には、香でも、指輪でも、何も入れなくてもかまいません。

仏塔は、日本の寺の五重塔の形をなぞっています。屋根の上に立つ相輪は名前のある部品の積み重ねで、その中ほどに九つの輪——九輪——が重なります。この店の仏塔で輪が回っているのは、この相輪の上です。仏具ではなく、飾りとして作っています。

ここに無いものも挽けます

この旋盤は、店に並んでいるもの以外も挽いてきました。商品一覧にない、お客様の作りたいものも形にできるかもしれません。ぜひご相談ください。受注制作について

同じものは二つとない

型も図面もありません。まず木を読み、形はそのあとから決まります。木は均一ではなく、一点ずつ挽いています。色・木目・杢・寸法・重さは一点ごとに違い、写真とも違います。それは素材そのものであって、欠点ではありません。

途中で道具が残した痕も、そのまま残します——それは素材が形を変えた一瞬の記録で、磨いて消せばその一瞬も一緒に消えます。